伊坂幸太郎さんの著書では殺し屋が主人公の作品がいくつかあります。
殺し屋シリーズの中で私のお気に入りがこの『AX』です。
主人公は殺し屋の業界で一目も二目も置かれる腕利きの殺し屋、兜(かぶと)。
家に帰ると異常なほどに妻の機嫌を伺う恐妻家であった。
高校生の息子、克己にもいつも呆れられているほどである。
『仕事で緊張することはない、やるべきことをやるだけだ』と語る男が
家では妻に気を使いまくっていて、ちょっとした会話でも妻を怒らせたのではないかと
冷や汗をかいている。
10代後半から裏社会で仕事をしてきた兜。
家庭環境に恵まれず両親からも愛情を注がれることなく育ち、生きていくために
やむを得ず殺し屋になったと推測される。
そんな男が家庭を持ち、殺し屋の世界から足を洗いたいと考え始める。
兜に仕事を紹介する男からは、辞めるためにはたくさんのお金が必要、その為にも
仕事をしろと言われ引退できないままずるずると月日が経過している。
引退したいと願う一方で、今まで多くの人を殺害してきた自分が平和に暮らすことに
罪悪感を感じている。
兜のポリシーは『フェアでいること』。弱い立場の人に強く出たり、
「自分はいいけど、相手が同じことをするのはダメ」などアンフェアなことはするなと
息子の克己にも言い聞かせていた。
やはり自分が今までのことを無かったことにして普通に暮らすことはフェアじゃない…
果たして兜は殺し屋から足を洗えるのか?
物騒な仕事をこなしながら、妻には頭が上がらない兜の日常にクスッと笑いながら、
途中からハラハラする展開もあり、最初から最後まで楽しめる小説です。
兜の恐妻家のエピソードで面白いと思ったのが、仕事で深夜に帰宅した時に食べる夜食の話。
妻を絶対に起こしてはいけないので、カップラーメンなど音を立ててしまうものはダメ。
音を出さず、日持ちもしてお腹も膨れるものは何か。冒頭のシーンで殺し屋仲間に披露して
哀れみの目で見られてしまいます。
妻や息子のために不器用に一生懸命な兜のキャラクターがほっこりした気持ちにさせてくれる
おすすめの一冊です。

